国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所(JAXA)様


国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 DESTINY⁺プロジェクトチーム 主任研究開発員の細沼貴之様、太田方之様に、Speedgoat社のPerformance real-time target machineを採用した「DESTINY⁺プロジェクト」についてお話を伺いました。

Purpose

はじめに、理工一体ミッションであるDESTINY⁺の目的は、「小型深宇宙探査機技術の獲得」および「流星群母天体のフライバイ観測および惑星間ダストのその場分析」です。

<工学ミッション> <理学ミッション>
・電気推進の活用範囲の拡大
・先進的なフライバイ探査技術の獲得
・地球外からの炭素や有機物の主要供給源たる地球飛来ダストの実態解明
・地球飛来ダストの特定供給源であるふたご座流星群母天体(3200)Phaethonの実態解明

※出典:国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構「深宇宙探査技術実証機(DESTINY⁺)の開発状況について」資料のミッション概要より

DESTINY⁺は"Demonstration and Experiment of Space Technology for INterplanetary voYage with Phaethon fLyby and dUst Science"の略で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所(ISAS)が進める公募型小型計画の2号機として選定され、2028年の打ち上げを目指して現在開発中です。
将来の深宇宙探査を低コスト・高頻度に行うための電気推進を用いた小惑星フライバイを実施する工学技術実証に加え、フライバイ時に理学観測を行い、地球に炭素や有機物を供給する地球飛来ダストの実態解明と、そのダスト源の一つであるふたご座流星群の母天体である小惑星(3200)Phaethonのフライバイ探査を目指します。
2030年に計画されている小惑星Phaethonフライバイ観測の成功が本プロジェクトのゴールです。

フライバイ観測は塵を観測するダストアナライザ(DDA)に加え、広い視野を持つマルチバンドカメラ(MCAP)でのマルチカラー観測と1軸駆動望遠鏡を具備するTCAPを用いて高度500kmから10m精度での地形観測を目指しています。このTCAPによる観測では望遠鏡の指向方向を対象天体に向けて自律制御を行う必要があり、その追尾制御の検証としてSpeedgoatを用いた試験を実施しています。

 

DESTINY⁺が目指すフライバイ探査

DESTINY⁺のミッションの1つであるフライバイ観測では、小惑星の近く(約500km)を探査機が高速(約36km/s)で横切る間、すれ違っていく小惑星相対方向変化に合わせて、搭載カメラ(TCAP)の向きを小惑星方向に向け続けることが必要になります。この様なことを達成するためにDESTINY⁺は、TCAPで撮影した小惑星画像を基に、小惑星に対する探査機相対位置を機上で自律的に推定(光学航法)し、推定結果を基に未来の小惑星方向を予測しながらTCAPの駆動鏡を適切に制御することでTCAPによる小惑星追尾を実現します。(追尾制御)
※最接近7.5時間前までにTCM(軌道修正)を終了し、自動制御へ移行

略称 名称 機器概要・観測対象・実証内容
TCAP 望遠カメラ
Telescopic CAmera
for Phaethon
駆動鏡を用いた追尾機能有の望遠カメラ
<観測対象>
 Phaethonのグローバル形状
 Phaethonのセミグローバル地形 <100 m/pix
 Phaethon表層のローカル地形 <10 m/pix
MCAP マルチバンド
カメラ
Multiband CAmera for Phaethon
複眼カメラによる多バンド同時撮像カメラ
<観測対象>
  Phaethon表層の物質分布 可視近赤外スペクトル <100 m/pix
DDA ダストアナライザ
DESTINY⁺ Dust Analyzer
ドイツとの国際協力によりDLR/シュツットガルト大学が開発
ダスト粒子毎の質量、速度、飛来方向、化学組成のその場分析を行う
<観測対象>
 惑星間ダストおよび星間ダストの物理化学特性
 Phaethon由来ダストおよびダストトレイルの物理化学特性
MDP ミッションデータ処理装置
Mission Data Processor
ミッション機器(DDA,TCAP, MCAP)および実証機器(DSM,RTP)のデータハンドリングをとりまとめるデータ処理装置であり、フライバイ実施時においては本装置に実装する追尾制御アプリケーションにてTCAPの駆動鏡追尾制御も合わせて実施する。

※出典:国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構「深宇宙探査技術実証機(DESTINY⁺)の開発状況について」資料のミッション概要より一部抜粋

MIS Solution

光学航法による推定と追尾制御の実施にあたって、TCAPの探査機に対する取付角やTCAP内の駆動機構のアライメント誤差は航法・制御精度の劣化要因になります。探査機が小惑星にたどり着くまでの深宇宙航行期間中の環境変化によって、これらのアライメントが変化する可能性がある一方で、主に通信回線容量の制限などから、事前に地上からの支援でどこまでアライメント校正ができるかは確証がありません。そこで今回、アライメント校正残差がある程度残っても、フライバイ直前の光学航法と合わせて自律的にアライメント誤差を機上推定・補正するアルゴリズムを検討し、MDP搭載ソフトウェアとして実装しました。

実装したソフトウェアが意図通り、かつ、実時間内に動くことを検証するためには、可能な限り実際のデータフローに則した入出力を模擬した状態で、ソフトウェアが実行される搭載計算機(MDP)上での動作確認を行うことが必要になります。そのため、探査機姿勢や姿勢自身の制御部分のダイナミクス模擬、小惑星、TCAPのダイナミクスモデルを含んだシミュレータをSimulinkで構築してSpeedgoat上で動作させ、SpeedgoatとMDPを接続したシミュレーション(Hardware-In-the-Loop Simulation)を行いました。

 

ミッションデータ処理装置(MDP)試作機の性能評価

※SpaceWireは、宇宙機(衛星)内で、搭載コンポ-ネント間のデータ通信を行うための通信I/Fおよび通信プロトコルの仕様です。
※UDPはUser Datagram Protocolの略で、インターネット通信プロトコルの1つです。

Goal

HILSによる動作結果とPC上でのシミュレーション結果を比較することで、開発した搭載ソフトウェアが実際の動作環境であるMDP上でも意図通り機能することを確認するとともに、所望の性能についても達成できることを確認しました。
この結果に加え、実装したアルゴリズムをMDP上で動作させた際の処理負荷についても計測し、負荷として十分余裕のある状態であることを確認しました。
今回のシミュレーションはDESTINY⁺のPhaethonフライバイ観測を念頭にした条件に絞って実施しましたが、プラネタリーディフェンス等の観点からは、Phaethonだけでなく、多様な小惑星をもっと高頻度に観測することの必要性が議論されています。この様な背景も踏まえて、今後はDESTINY⁺のPhaethonフライバイ観測だけに限らず、より多様な条件への適用を念頭に、制御則・シミュレータへ拡張できることが期待できると考えています。

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