コベルコ建機株式会社様

油圧ショベルは建設機械の中でも多様な作業に使われる汎用性の高い建設機械であり、建設機械の自動運転技術の開発が進んでいる近年では、生産性向上を目的に油圧ショベルの自動運転技術の確立が強く望まれています。そこでコベルコ建機株式会社は、実際の運転手の油圧ショベル操作を各種センサで記録し、その操作を再現することで、繰り返し行う作業を自動運転する技術を開発しました。まず技術開発をするにあたり自動運転システムを適用する現場と作業対象を想定する必要がありますが、油圧ショベルは様々な工種で使用されており、全ての工種に対応できるものを開発することは難しく、且つ油圧ショベルの特性として、ブーム・アーム・バケットのみならず、旋回・走行と動作種別も多いことから、解決すべき課題は多くありました。
Purpose
そこで、運転手が苦渋に感じる単純な繰り返し作業に着目し、その作業を行うための自動運転システムの技術を開発しました。今回は、濁水処理装置において、同一箇所に堆積する脱水ケーキ(*1)を所定の場所に停車したダンプトラックの荷台へ積込む作業を選定しました。この作業であれば、バケットのすくい上げ位置と荷下ろし位置はそれぞれほぼ一定であり、走行させずに同一の場所で繰り返し行う作業を自動運転で実施することが可能であると考えたためです。このとき、自動運転システムの動作は、実際の運転手の油圧ショベル操作を各種角度センサで記録し、記録した操作を再現する方法で開発を行いました。
しかし従来は、ハンドコーディングで、制御アルゴリズムの開発、実装後のパラメータの調整を実施していましたため、下記のような課題があり、開発に膨大な時間を要していました。
*1 脱水ケーキ:水分を含む産業廃棄物や汚泥を脱水処理したもの
  1. 限られた担当者にしか制御開発、実装後のパラメータの調整ができない。
  2. 実験中に内部パラメータの調整を、リアルタイムに行うことができない。
  3. 実験中の内部変数を、リアルタイムに参照することができない。
  4. 1~3により、パラメータ調整によるトライ&エラーの実施、内部変数のロギングの分析ができない。
MIS Solution
上記課題を解決し、チーム内のメンバーが容易に実機検証できる制御アルゴリズムを開発するため、ラピッド・コントロール・プロトタイピング(RCP)を適用しました。そのコントローラとしてMATLAB®/Simulink®と親和性の高いSpeedgoat社のMobile real-time target machineを採用し、構築した制御モデルを実装し、制御アルゴリズムの検証を行いました。まずは、自動運転させたい動作を運転手にて行い、それをティーチング(記録)し、ティーチングした動作を開発した自動運転システムで再現できるか実際の現場で実証実験をしました。
実験では濁水処理設備のベルトコンベアから落下して堆積している脱水ケーキをピットからすくい上げ、180 度旋回してダンプの荷台へ積込む一連の作業を自動運転させました。ダンプの停車位置は、設置した赤外線センサでダンプの荷台が所定位置に来たことを検知し、回転灯でその旨を明示することで油圧ショベルからの離隔を一定に保ちながら、車止めを設置することで油圧ショベルとの接触を防止する対策も講じています。自動運転の作業手順は以下の通りです。
  1. 自動運転システムを動作させ、油圧ショベルの各部位の挙動を示す角度センサデータの記録を開始する。
  2. 運転手がピットからダンプ荷台に脱水ケーキを積込む作業を行う。
  3. 自動運転システムの記録を停止する。
  4. 自動運転システムの操作者は遠隔地にある操作タブレットから記録した動作の再現を指示する。
    (今回の実験ではシステムの操作者は油圧ショベルの近傍で安全を確認しながら指示を与える。)
  5. 自動運転システムは記録したセンサデータに基づき、運転手の動作を再現する。
  6. 手順5を指定した回数繰り返し、ダンプへの荷下ろし作業を完了させる。
Goal
MATLAB®/Simulink®とMobile real-time target machineの親和性が高いことで、モデルの実装がシンプルであり、制御アルゴリズムの検証を容易に行うことができたため、チーム内の多くのメンバーが、簡単に実装・実験・パラメータの調整ができるようになりました。それにより開発リードタイムの短縮に繋がりました。また、実験中リアルタイムにパラメータの調整・内部変数の参照ができるようになり、それにより課題分析時間の削減、実験時間の短縮に繋がりました。さらに、Mobile real-time target machineを機械外部のシステムと連携させることで、自動運転中の経路情報を機械外部の表示システムに出力し、自動運転の現場適用を進めていくうえで必要な監視機能のひとつとして活用することもできました。これらの成果により、自動運転油圧ショベルを、早期に実際の工事現場に適用し、省人化・生産性の向上に繋がることを実証出来ました。今後は自動運転のみならず、通常ショベルの開発や様々な自動運転ユースケースに対する開発でも導入していく見込みです。
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